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Selfishly

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可愛いペット act2




《注!!》 項目番号はアップした時のページ数の都合で
       増えて変わっている時があります。
       項目番号が飛んでいても、話の数には
       変わりはありませんので。



~可愛いペット~ p5「迷友~めいゆう~」


「じゃあな、ロイ。
 俺ら行って来るけど、母さんの事を頼むぞ」

「お土産に、一杯骨を貰ってきて上げるからね」

そう言い置いて、蒼ざめた顔をして二人は旅立っていった。

置いていかれたロイは、悄然としながら去って小さくなっていく
車影を眺めていた。

「くぅ~ん」ため息のような、小さな啼き声を上げて、
トボトボと、駅の構内から出て横手の路地に入っていく。

こののどかな村では、そんな些細な事は、
誰も気にしていなかったのか、
その路地からは、誰も、それこそ犬一匹出てこず、
そして、路地の中には影も形も無かった。
そんな、リゼンブールでの昼下がり。


エドワードとアルフォンスは、数ヶ月に1回、
二人でこの村を離れていく。
どうやら、何かを学びに行っているらしいが、
どんなにロイが食い下がっても、それには連れて行ってもらえないでいる。
出かける日程は不定期なのだが、
二人の様子で、大体の時期はわかるようになった。

「兄さん・・・」

「ああ、アル」

向かい合って、固く手を握り締めあっている二人・・・。
妙な光景だが、そんな事には構っていられないのか、
二人は、ひしと涙して抱きしめあう。

「「今度も絶対!生きて帰ってこような・ね!」」と
一体何事がと思うような事が、日常に頻繁になってくると、
その後しばらくすると、二人は出かけていくのだ。

ロイも最初は、犬だから連れて行ってもらえないなら、
人型に戻って、付けていこうかとも何度も思ったのだが、
エドワードが、必ず出掛けに、母親の事を頼んで行くので、
その信頼を裏切る事も出来にくいし、
二人の様子から、何やらよからぬ気配が伝わり、
二の足を踏んでいるのも確かだ。

数日もすれば、よれよれにはなってはいるが、
必ず戻ってくるし、あれだけ大袈裟に脅えているくせに、
行くのが嫌と言うわけでも無さそうで、
ロイも、しばらく静観を決め込んでいる。

それに、たまにエドワードが不在なのは、
ロイにとっても、好都合・・・とは本心は思えないのだが、
ロイの素性を知らないエドワードには、
隠し事もあるロイだ。


***

地方都市は、リゼンブールの村と違って、華やかで、
雑多で、人が多い。

今も、横道に逸れる路地から、一人の青年が現れてきた。
黒の色彩を髪と瞳に持つ青年は、なかなかに好男子で、
立ち居振る舞いも、その肢体と同様にしなやかで、隙が無い。

彼は、迷う事無く道を進み、一つの昼からも営業しているバーへと入っていく。

薄暗い店内でも、戸惑う事無く、奥のBOX席へと足を進めると、
先に席に居た先客から、声をかけられる。

「よぉ、ロイ。 遅かったな~」

「何が遅いだ。 勝手に時間を指定してきたのは、
 お前だろうが、ヒューズ」

呆れたように、渋面を作りながら、ロイは向いの空いてる席に
不機嫌そうに、腰を下ろす。

「なんだよ、時刻は聞いてたのに合わせてるだろうが。
 どうせお前さんが、未練たらしく、ホームでグズグズしてたから、
 遅くなったんだろ」

ガハハと、笑い声を上げながら、言うヒューズに、
ロイの米神に、バッテンマークが浮くが、
言われた事が真実だから、言い返す事もできやしない。

ロイは、ぶっちょう面のまま、テーブルに用意されていた酒を
手酌であおる。

「おいおい、それ高い酒なんだぞ~。
 そんなにグイグイ、水みたいに飲むなよー。
 せめてもうちっと、味わってくれよ」

「ふん、どうせお前の勘定だ。
 たらふく飲んで帰ってやる」

ヒューズは、大袈裟に嘆く素振りを見せながら、
自分も負けじと、酒瓶を取り返して飲み始める。

「まぁ、お前の気持ちはわかるよ。
 せっかく、運良く伴侶を見つけたって言うのに、
 相手がお子様過ぎて、手が出ないんじゃ、
 指を咥えて見てるしかないものなー。
 そりゃあ、鬱憤も溜まるし、別のもんも溜まりっぱなしだろうよ」

同情しているセリフを口にする割には、
表情は、えらく楽しそうなのが、癪に障る。
ロイは、相手にせずに、黙々と酒を飲み続ける。

「やっぱなー、俺としては、お前の不幸を見過ごしておけないと思ってな」

腕を組んで、一人でしきりに自分の弁に頷いている相手を、
ロイは胡乱そうに斜めに見上げる。

「そこでな。 ジャーン!!
 俺の幸せのおすそ分けだ~」

嬉々として、懐から取り出した写真を、ずらりと扇のように広げて見せるのに、
ロイは、額に手を翳して、気のせいか痛み出した頭を庇うような仕草を見せる。

「どうよ、どうよ~!
 この俺様のすんばらしい、世界で唯一! 
 い~や、宇宙で1番美しく、慈悲深く、やさし~いい俺の女神ー。
 し・か・もー!
 それに加えて、チャーミングでプリティーで、スペシャル愛らしい
 俺らの愛の結晶のエリシアの、この天使を思わす可愛いさ!
 
 さあさあ、不幸なお前にも、とくと見せてやるから、
 少しは、幸せの気分を味わいたまえー」

眼前に突きつけられた写真から、幸せを得れるのは、
この妻子馬鹿のこの男だけなろうが、
ロイの反応には、全く無頓着に・・・本当は気づいてそ知らぬふりを
しているのではと、疑いたくもなるが・・・、嬉々として、
愛蔵の写真を披露しては、延々と自慢&のろけ話を
繰り広げていく。

「・・・ヒューズ」

「んでな、この時にエリシアが言ったんだよ~。
 『パパが1番大好き』ってなー、
 もう俺は、感動で胸が潰れそうだったんだぜ、
 わかるか?わかるだろー。
 こーんな、ミラクル可愛い天使に言われてさ、
 感動しない奴が」

「ヒューズ!」

「しかも、そん時に、可愛く頬にチュッな~んて
 してくれてさー、俺は危うく、頬を落としそうになったよー」

『落としそうになったのは、デレデレ伸び切った鼻だろうが』

感動の余韻に浸っている隙を付いて、
ロイは手早く、広げられて写真を、丁寧に一まとめにして、
ヒューズに付き返す。

「ヒューズ・・・お前の幸せ自慢は、もう十分伝わった。
 さっさと、片付けて貰おうか」

「ええ~、なんでよぉー。
 まぁ~だ、全然、俺の愛は語りつくせてないってのにー」

不満たらたらな様子を見せながらも、大事そうに写真たちを
内ポケットに収める。
それを見て、ホッと胸を撫で下ろす。
ヒューズに付き合っていると、1時間どころか、一晩でも、二晩でも
延々、妻子の溺愛振りを語られる事になるのは、
ロイには、よぉ~く身にしみている。

「しかし、お前も変わった奴だな。
 伴侶の事はわかるが、子供がそんなに可愛いものか?」

ロいたちの種族では、伴侶が自分の唯一であり、絶対だ。
ヒューズのように、子供を溺愛する同族は見たことがない。
ロイとて、生まれて直ぐに、両親に置き去りにされたのだ。
だからと言って、別に恨んでもいないが。

「そりゃー、俺も始めは、子供なんて、
 じゃまっ気だとか思ってたぜ。
 でも、日に日にグレイシアに似てきてさー。
 グレイシアが子供の頃は、こんなんだったのかと思うと、
 もう、可愛くて愛しくて、仕方なくなっちまったんだよー」

「そうかぁ? どうせ、別ものじゃないか」

冷め切ったロイの様子に、ヒューズが、やれやれと嘆息する。

「馬鹿だねー、お前。
 考えても見ろよ、2倍だぞ、2倍~!
 幸せが2倍になるんだぞ~、こんな幸せな事ってないだろうがー」

でへへへっと、見るからに締まり無いにやけ顔で、
笑っている彼に、ロイは、呆れたように見返す。

「あっ、お前信じてないな。
 じゃあ、ちょっと考えてみろよ。
 お前の大好きな大好きなお子様が二人居て、
 ロイ~とかって抱きついてきたら、どうよ」

ヒューズの話に、思わず想像を浮かべてしまう。
エドワードは一人で十分だが、しかし、二人居てみるとしたら・・・。

「ロイ~、ねぇロイは俺の方が好きだよねー」

「何言ってんだよ、ロイは、俺のほうが好きに決まってるだろ、ねぇロイ」

「俺なら、ロイにあ~んな事や、こ~んな事をされても
 全然、OKだよー」

ロイの耳が、思わずピクリと動く。

「な~に言ってんだよ。
 俺なんか、ロイになら、○$×&~とかぁ、*!?%な事とかも
 してあげるんだから」

公然と表記出来ない内容に、ロイは思わず、ゴクリと喉が鳴る。

「「ねぇ、一体どっちの俺の方が、好き~」」

強請るように、誘惑するように、誘うような瞳が4つ、
ロイに纏い付いて、見上げてくる。

『これは、かなり良いかも知れない・・・』

ロイが、自分の妄想にうっとりしていると、
ハタと気が付くと、憐れみに満ちた視線が注がれていた。

「うっ・・・ゴホン」

思わず空咳などをしてみて、気まずい気分をかき消そうと試みる。

「まぁな、お前も大変だよな・・・。
 気長に頑張ってくれよな」

そう言いながら、自分の手にはめている時計を見ると。

「いかん!! グレイシアと約束した夕食に遅れる!
 グレイシアの素晴らしい料理を、冷めさせるなんて、
 俺には出来ないー。

 っと言う事で、じゃあなロイ」

そう一気に語ると、がたりと席を立って、
立ち去って行こうとする。
そのヒューズの一方的な様子に、しばし呆気に取られたロイだが、
はっと気を取り直して、大慌てで声をかける。

「おっおい、ヒューズ!
 お前、何か話があるからと呼んだんだろうが」

そのロイの呼びかけに、ハタっと足を止め、
慌しく踵を返してくる。

「そうだった、肝心な話を言うのを忘れてたぜ。
 メンバーの総会があるそうなんで、
 お前も出席にしろよな。
 期日は、それまでに連絡する。
 じゃあな!」

そして、本当に急いでいるのか、ロイの返事も聞かずに
踵を返し、数歩進んだところで、
くるりと顔だけ向けて、一言。

「それまでに、お子様もGETしとけよな。
 手ほどきが必要なら、俺が教えてやってもいいぜ」

ニヤリと笑って、その後は一目散に飛び出して行った。

後に残されたロイは、茫然とした様子で、
ヒューズの去った扉を見送る。

そして・・・、手元に残った伝票を見て、

「総会なんぞ、別途知らせが来るじゃないか・・・。
 しかも、また俺の奢りか」

この手で、何度たかられてきたか。
どうも、伴侶を持つとセコクなるようだった・・・。

『だから、来たくなかったんだ・・・』

虚しい思いを抱えながら帰途につくロイは、
早く癒される、エドワードの姿を見たいと、心から願いっていた。





~可愛いペット~ P、6「負け犬達の晩餐」

ホホホと軽やかに、上品に、貴婦人達の笑い声が流れ、
触れ合う度に澄んだ音色を奏でる食器たちは、
それが如何に高価な物ばかりなのかを伝えてくる。
そんな光景に相応しい、美しい調が室内に控えめに流れ、
給仕する者たちも、訓練の賜物の優雅で、美しい動作を見せては、
談笑しながら食事をしている人々のサービスに徹している。

ここは、選ばれた者のみが踏み込む事ができる、
格調高く、歴史もある老舗のレストランだ。
一見は当然ながら、金は有っても品格がないと判断された者も
店には入る事は出来ない。
地位も、財産も、そして、店に相応しい品格を備えていると判断された者だけが
扉から招かれる中に入っていける、高貴な空間を誇っている。

中で食事を楽しんでいる者達の顔ぶれ1つとってみても、
著名・有名人ばかりで、そんな事には慣れっこの客達も、
別に周囲の人々には、特に注意も、気も払っていない。

が、さわさわと心地よい喧騒が、ふいにピタリと止む。

「お待ちしておりました、マスタング様、皆様。
 またお越しいただけて、光栄でございます」

このレストランの支配人が直々に迎え入れて、
招き入られた一団が姿を見せると、多少の事には動じない客達も
茫然とした態で、その一団に視線を奪われている。

支配人の追従に、にこやかに応対している男性は、
黒檀のように磨かれ、黒曜石のような輝きを具えている人物で、
容姿も動作も、申し分なく美しい。
そして、その横に控えている男性も、温和な風貌ながら、
そのメガネの奥には、聡明な光を宿している。
紅一点の女性は、美しい金の色を具えており、容姿は恐ろしく綺麗だ。
が、女性らしい優しさを纏っていると言うよりは、
戦女神のように凛々しいと言った方が良いだろう。
後ろに控えるように付き添っている男性も、
長身が映える明るい色合いを持っている、
人好きのする、なかなかの好男子で、
その横には、可愛いと言っておかしくないチャーミングな青年がおり、
その後ろには、老成した渋い雰囲気を纏う青年に、
ワイルドな雰囲気を持つ、体格の良い青年。

どれ一人見ても、なかなかのレベルなのだが、
一団となっていると、他を圧倒するような気配を生み出している。
その一団が、貴賓室に続く廊下を歩いて通り過ぎていくと、
セレブには慣れきっている客人たちも、思わず感嘆のため息を、
知らず知らずに吐き出して、それが小波のように、
室内に反響していく。

そんな周囲の反応には慣れているのだろう、
特に関心も払わずに、案内された部屋へと入っていく。

「いつものように、ご用意させて頂いております。
 何か御用がございましたら、遠慮なくお申し付け下さいませ」

深々と礼をする支配人に、ロイは鷹揚に礼を告げ、
下がるように言う。

支配人が下がるまでの間、一同は静かに席に着き、
微動だにしない。
そして…、パタンと扉の閉まる音を確認すると。

「はぁ~、なんでこんな肩こる所に毎回するんすっか」

早速とばかり取り出したタバコに、火を点ける。

「こういう店は、守秘義務を守るからな。
 我々のように、探られたくない事が多い者には、
 これ位の所がいいんだ」

「僕は、この店好きですよ。
 お料理が、すごく美味しいし」

ニコニコと、目の前に並べられた料理を嬉しそうに眺めている。

「まぁ、俺のグレイシアの料理ほどじゃーないが、
 良い酒も置いてるしな」

早速とばかりに手を伸ばしては、美しくセッティングされている
瓶を取り上げて、皆に注いでやる。

品格のある店には有り得ない光景だ。
テーブルの上には、すでに全コースの料理が並べられ、、
テーブルの横に置かれているチェストには、ずらりと酒瓶が冷やされて、
並べられている。

「金さえ積めば、無理が利くのもいいとこだしな」

そう、給仕が付かないように、この部屋には全ての用意が
万全に揃えられているのだ。

皆に酒が行き届いたのを見回すと、ヒューズは自分のグラスを持ち上げて、
高らかに開催宣言を告げる。

「んじゃー、何回目か忘れちまったけど、
 負け犬達の晩餐を始めるかー」

全員が、渋々の様子で、グラスを掲げる。

「んでも、その会の名前って何とかならないんっすか」

トホホな表情でハボックが言うと、紅一点のホークアイと
ロイ以外は、皆一様に情けなそうな表情で頷く。

「そうですよ、ヒューズさん。
 僕、その会の名前を思い出すたびに、涙が浮かんできそうです」

「その名前には、何か曰くが?」

フュリーやファルマンが話すのに、ヒューズは気が抜けるように返事を返す。

「いんやー、俺が思いついただけ」

「ヒューズ、私もその中に入れる必要はないだろう?」

ロイは、不機嫌そうに不満を伝える。

「えー、だってお前、伴侶は見つけたけど、
 まだ、手に入れれてないじゃないか。
 俺を見ろ!
 気高く美しい伴侶を手に入れただけでなく、
 凶悪なまでに可愛い愛娘まで手に入れてるんだぞ~。

 どうだ、どうだ、最新の写真見るか?
 これがまた、天使もここまで可愛くはなれないだろうって程、
 超可愛いく、チャーミングで、キュートで」

いつものように、嫁・子供自慢が始まったのを、
皆があっさりとスルーさせながら、各々近況を話し出す。

「しかし、俺らの伴侶ってどこにいるんっすかねー」

「いい加減、見つかって欲しいもんだな」

「私はこの前まで、思考を切り替えて、
 人里はなれた山奥にも足を運んで見ましたが、
 それらしい気配は一向に。
 危うく遭難しかけた位でした」

「ええ~、俺は植物とか無機物は勘弁して欲しいぜ。
 やっぱり、意思の疎通が出来る方がいいしさ。
 そんでもって、こうなんていうか、グラマラスな異性だったら、
 倍愉しいだろ?」

「お前はそうやって決め付けるから、
 探索の範囲が狭まるんじゃないのか?」

「ってもよ、ブレダ。
 折角の世界で唯一の伴侶だぜ。
 しかも、この先ずっーと一緒なら、楽しめる相手のほうが
 良いに決まってるだろー」

「ハボックさん、不潔です!
 伴侶は、純粋で高潔なものですよ!
 それをそんな邪な気持ちで」

「お子様~」

皆が口々に、言い争っている間も、
一向に会話に参加せずに、黙々と料理と酒を煽っているホークアイに、
ロイは、不思議そうに窺ってみる。

「君は見つかったのかね?」

「いいえ」

淡々と返された言葉に、ロイが怯む。

「いや…しかし、なら皆同様、気にはならないのかい?」

ロイ達の種族で、伴侶を探さぬものも、気にならないものもいないはずだ。
それが全てで、唯一とも言える、ロイたちの存在の理由なはずなのだが。

「焦ってどうなるものでもないなら、待つのも必要かと」

余りにも真っ当な返答に、ロイのかけようとした言葉が止まる。

「そーそー、リザちゃんの言うとうり!
 運命なんだよ!宿命だ!
 お前らも焦るより、ちっとは落ち着いて、どんと構えてろ」

どんどんと酒瓶を空にしていきながら、
ヒューズは、陽気に告げる。

愚痴や励まし、慰め、発破が飛び交いながら、
晩餐はどんどんと、エスカレートしていく。

今までの会話からおわかりのように、
これらのメンバーは、要するにあぶれ者の集まりなのだ。
伴侶センサーを持つロイ達の種族の中で、
この面々は、何故かセンサーが働かず。
行く充ても、探す方向も定まらず、
日夜、あてどもなく日々をうろついている。
通常なら、そんな日々の中で、ちゃんと巡り合うのが、
ロイ達の種族の奇跡の力なのだが、
彼らは、結構な年月を過ごしていてさえ、出会わずに来てしまっている。
ロイのように、生後すぐに伴侶に出会えるのは、
かなり幸運と言えるだろう。

外見から見える年齢とは関係なく、ここではロイが最年少だ。
ちなみに最年長はヒューズで、彼は伴侶に出会えるまで50年の歳月がかかった。
後の者も、ヒューズほどではないにしろ、
結構な年月がかかっており、そこまで歳月がかかっても
伴侶に出会えないと言うのは、本当に珍しく、そして不幸な面々ばかりなのだ。
要するに、不幸で負け犬街道を走っている面々の集まり。
それが、この晩餐の顔ぶれなわけだ。

「けど、ロイさんとこは、まだなんすか?」
 
矛先が自分に向けられ、しかも嬉しくない現状だけに、
ロイも渋い表情になる。

「そーそー。こいつ、出会ったのは最短だった癖に、
 相手が子供過ぎて、手が出せない状態なのよー」

ガハハハーと豪快な笑いを見せるヒューズに、ロイの米神に怒りのマークが浮く。

「そりゃー、お預け状態ってわけですね」

「そうなんだよ、『待て』ってかー」

主のふりで、そんな仕草まで見せてくる。

「ヒューズ!!」

堪えきれずに、ロイが怒鳴りつける。

「おお、怖い怖い。
 煮詰まってるわ、溜まってるわで、可哀相な男は、
 気が短くなってしょうがねえよな~」

「マジっすよ。
 この前、この定例会の連絡に寄ったときに、
 俺なんて、焼け焦げにされそうになったんすよー」

ハボックが、恨みがましく不平を言う。

「あれはお前が悪い」

むっつりと言い返すロイに、周囲の者達が、なんだなんだと興味を見せてくる。

「いやぁ、この前に連絡で寄ったろ?

 そん時にさ~」

「ハボック、黙ってろ!」

「ロイ~、お前この会での決まりごとを忘れたか~?
 どんな些細な情報でも、皆で共有することで、
 少しでも早く、伴侶に辿り着ける手立てになるってのを」

「それとこれは、全く関係ないだろうが!」

「いんや~、どこに手がかりがあるかわかんないんだ、
 ハボック、俺が許す、皆に聞かせてやれ」

ここでの上下関係は、年齢ではなく力関係で決まっている。
ロイは最年少だが、能力はこの中ではピカイチなので上位なのだが、
いかんせん、まだまだ経験が浅いところがあり、
最年長のヒューズには、なかなか叶わない立場だ。

「そうですか? じゃあ、報告しま~す!」

のりのりの様子で話し出すハボックに、皆が、やんややんやと喝采をする。

その話を再現すると…。

暖かい日差しの中、数日不在していたエドワードが戻ってきていた。
久しぶりの伴侶の傍で、ロイは幸福を満喫していた。
草むらでゴロリと二人で寝そべり、寄り添いながら、
優しく撫でてくれるエドワードの手を、時たま味見・・・嘗め返しながら
香気をうっとりと吸っていると。

ピクン
ロイの鼻に皺がよる。
そして、嫌々そうに頭をもたげると、横に居たエドワードが
怪訝そうに、ロイに呼びかける。

「どうした、ロイ?」

ロイが頭を持ち上げた先を、エドワードが目で追うと、
1匹の大型犬が、ゆっくりと近づいてくる。
綺麗な金色の毛並みの大型犬は、友好の証のように
ふさふさした尻尾を、横へと振っている。

「あれ? どこの犬だろ?」

よいしょと起き上がり、エドワードは近づいてくる犬に
警戒心も全く浮かべずに、手招きして呼んでみる。

エドワードに呼ばれて、嬉しそうに小走りに走ってくる犬が、
もう少しで、エドワードの手が届く範囲に入るという所で、
ロイがさっと身体を割り込ませ、やってきた犬に威嚇の唸り声を上げる。

そのロイの様子に、怯んだように足を止めて、様子を窺っていると。

「ロイ! 駄目だろ、そんな態度するなんて」

エドワードが言いながら、ロイの頭を叩く。

そして、ショックを受けているロイには気づかずに、
エドワードは、躊躇っている犬に手を伸ばして、
優しく頭を撫でてやる。

「ごめんなー、こいつ、ちょっと人見知りするたちでさ。
 怒らず仲良くしてやってくれよな」

そう言って、耳の後ろも撫でてくれるエドワードに、
ハボックは気持ちよさげに、鼻を鳴らす。

「お前、ふさふさしてて、気持ちいいよなー」

長毛種の大型犬は、抱きしめると、ぬいぐるみを抱いているみたいで
気持ちが良い。
ロイは、短毛種なので、この感触は、なかなか味わえない。

エドワードが嬉しそうに、何度も頬擦りするのに、
ショックから冷めたロイが、非難するように吠える。

『ハボック! 離れろ。
 それは私の伴侶だ!』

『えっ~、っても、俺が抱いてるんじゃなくて、
 この子が、抱きついてきてるんっすよ』

そんな風に言いながらも、ハボックも満更でもなさそうな様子を見せる。

熱心に、身体を撫でているエドワードが、
感心したように呟く。

「綺麗な毛色だよな、お前。
 ロイとは正反対で、お日様みたいだな」

『そうでしょ~』

エドワードに褒められて、嬉しそうにハボックが仰向けに寝転ぶと、
撫でてもらうのを強請るような仕草を見せる。

「あははは、お前、なんか可愛いよな、大きいのにさ」

すっかり気に入ったエドワードが、犬が見せる腹を撫でてやる。

『う~ん、き・気持ちいいかも。
 なんかこの子供、いいっすね』

ワフワフと嬉しそうに喜びの声を上げているハボックに、
ロイの怒りが頂点になる。

『ハボックー!!』

ロイの真剣な怒鳴り声に、瞬時にハボックが飛び起きて、
さっと、エドワードから離れる。

「ロイ!」

叱りつけようとしたエドワードが、ロイの名を呼ぶが、
ロイは、身体を使って、エドワードとハボックの間を
引き離すように押しやると、
ハボックの方を向いて、顎をしゃくる。

そして、さっさと歩き出すロイの後を、
尻尾をすっかりと垂れ下げ、縮じこまらせながら、
すごすごとハボックが付いていく。

その2匹の犬の様子を窺いながら、エドワードは一人ごちる。

「なんだ、2匹で遊びたかったんだな」

一人で納得して、エドワードは見送った。

そして、その後…。


「あの後、俺、殺されそうになったんっすよー!
 まじ、火炎放射の標的にされて、自慢の毛並みが
 こげ焦げに…」

悲劇を語るハボックに、皆一様に冷たい視線を送る。

「それは、お前が悪い」

「そうですね。 他人の伴侶に擦り寄るなんて、
 恥ずべき行為ですよ」

「節度を持たないものは、万死に値しますね」

仲間の冷たい非難の数々に、ハボックが形勢不利と見て、
ヒューズに泣きつく。

「ヒューズさん~! 俺が擦り寄ったんじゃないんっすよ!
 相手から近寄ってきたんであって、俺は被害者ですよね」

泣きついてくるハボックに、ヒューズは、重々しく首を振る。

「いんやー、お前が悪い。
 相手の伴侶に尊敬と敬意を示すために、
 一歩引くべきだな。

 これがもし俺のグレイシアやエリシアにだったら~!!

 ゆるさんぞ」

最後は、低いドスの利かせた声で、囁くように呟くと、
ハボックは、慌ててぶんぶんと首を頷かせる。

事の成り行きに、当然とばかりに、ロイは鷹揚に頷く。
伴侶とは、それだけ崇められて、敬われ、侵すべからずのものなのだ。

溜飲を下げたロイが、皆がエドワードの事を尋ねてくるのに、
自慢げに、誇りながら、機嫌よく答えを返していく。

一通り語ると、皆の興味も増したのか、

「一度、お会いしたいですよね」

「そうですな、また、時期を見て、挨拶に行かせて頂ければ」

それにも、ロイは機嫌よく、時期が来たらと返答を返す。

さっきから、端に弾かれているハボックが、
またしても、地雷を踏む。

「俺も、また逢いに行こうっと。
 なんか、むちゃくちゃ、触れられると気持ちいいんだよな~」

思い出しながらうっとりと呟いたハボックが、
はっと気づいたときには、ロイお得意の練成が準備万端の状態だった。


「あいやー!!」


高貴な店には似つかわしくない悲鳴も、
完璧な防音のおかげで、外には届かなかった。
そして、食後に扉を開いて出てきたのは、
おかしな事に入った人数より1名少なかったのだが、
誰も、そんな事には気が付かなかった。

そして、開け放たれていた窓から、
一匹の黒焦げの犬が、ほうほうの態で逃げ出していくのなど、
更に、誰の目にも留まらなかっただろう。



~可愛いペット~ P、7「豆姫と7人の従者」

その日は朝から、エドワードもアルフォンスもご機嫌なスタートをきった。
快晴の天気に恵まれて、今日はどこに遊びに行こうかと思っているところへ、
ロイの友達が集まって来たからだ。
かっこよい大型犬から、大人しそうな中型犬、
愛嬌のある可愛い小型犬と、犬種はそれぞれ違うのだが、
どの犬も、大変珍しく、目の保養、心の癒しになる。

「わぁ~、兄さん。 僕、こんなに綺麗な犬ばかり集まってるのを見たのって、
 初めてだよ」

元来、無類の動物好きなアルフォンスは、集まっている犬達を
恐れもせずに撫でては、喜んでいる。

「ああ、俺も初めてだ。 ロイは、沢山、友達が居たんだな」

感心するように、ロイに話しかけ、頭を撫でてやる。
エドワードに褒められたロイも、満更でもなさそうな様子を見せている。

『こんにちは、エドワードさん、アルフォンスさん。
 僕はフュリーと申します』

黒白のふわふわな尻尾と耳を、忙しなく動かしながら、
二人にキャンキャンと挨拶をしてくる姿は、駆け引き無しに
本当に可愛い。

「ふふふ、こんにちは」

アルフォンスも、目尻を下げて、足に纏わり付いてくる小さな子犬を抱き上げて、
挨拶を返してやる。
愛虚のある小型の犬は、動作1つにしても、文句なく可愛く、
人の警戒心を解く術を持っているようで、
エドワードも、釣られたように、アルフォンスに強請る。

「アル、俺も抱かせてくれよ!」

大きくなってしまったロイでは、だっこは難しい。
最近では、飛び掛られると、エドワードの方が押し倒される有様だ。
エドワードが順番を強請るように手を差し出すと、
アルフォンスが抱いていた子犬を、惜しみながらも兄に渡してやる。
エドワードの差し伸べられた手に触れられると、ピキーン。

子犬は一瞬硬直し、その後、大人しく項垂れてしまう。

「おっおい、どうしたんだよ!?」

急にぐったりとした子犬に驚いて、エドワードが持ち上げて、
顔を覗き込むようにする。

周囲に居た他の犬達も、同胞の様子に、心配げに鼻を鳴らして、
様子を窺っている。

『どうしたんだ、フュリーの奴?』
『体調が悪いようでは、ないですが・・・』

「おい、大丈夫か?」
エドワードが、覗き込むように声をかけて様子を探っていると、
子犬はやおら顔を上げ、大きな丸い目を潤ませて、エドワードを見つめている。
そして、おもむろに可愛い小さな舌で、エドワードの顔中を嘗め回してくる。
その光景に、ギョッとしたのは、周囲の犬達だ。

「急にどうしたかと思うだろー、くすぐったいよお前」

一心に顔を嘗めてくれる子犬に、エドワードが嬉しそうに頬擦りして
笑っている。
下から眺めている犬達は、フュリーの不穏な様子に、
気忙気に、上と、下のロイの様子をチラチラと窺っている。

伴侶には、心狭い種族だ。
例え他意はないのがわかっていても、自分の伴侶に、他人が近寄るのを喜ばない。

低い唸り声を上げ始めたロイに、周囲の犬達が慌てて、
フュリーに呼びかける。

『フュリー、いい加減にしろ! 』
『調子に乗りすぎだぞ。 さっさと離れろ!』

警告のように告げられる言葉の数々も、どういうわけか本人には
聞こえてても、理解されてないようで、フュリーは変わらず、
熱心にエドワードを嘗め上げては、陶然としている。

熱心な子犬のアピールに、さすがのエドワードも根を上げて、
愉快そうに笑いながら、子犬を下に下ろしてやる。

子犬は、惜しみながら一声啼くと、妙に覚束ない足取りで、
フラフラと仲間の犬の元に混じっていく。

戻ってきたフュリーを誰何している犬達を眺めていた二人が、
次の犬に気を惹かれて、声をかけあっている。

「アル、こいつ見てみろよ。 ごついのに、なんかめちゃ愛嬌あるぜ」

エドワードが、ひょいと屈んで、短い尻尾を向けているブレダの傍に座り込む。
身体はずんぐりしていて、顔も強面なのだが、
垂れ下がった目尻が、全体の雰囲気を変えて、愛嬌のある様子を見せている。
エドワードが、恐れ気もなく背中に手を伸ばし、小太りな身体を撫で始めると、
先ほどのフュリー同様、ブレダの身体が、一瞬硬直し、その後、
傍に屈んでいるエドワードに、枝垂れかかるようにして凭れていく。
自分に擦り寄ってきた犬を、エドワードが珍しそうに、観察している。

「こいつの牙を見てみろよ。 見かけによらず、凄く強そうだよなー」

エドワードが、唇から見える牙に感心しながら、
良く見ようと、手を添えると、犬は差し出された指を嫌がるでもなく、
嬉しそうに嘗めたり、甘噛みし始める。

『ブ、ブレダさん・・・?』
『おいおい・・・』

ブレダは、見かけとは違って、冷静で知的な性格だ。
そのブレダが、媚びるように、甘えるような仕草や様子を見せるなど、
珍しいを通り越して、驚きものだ。

「こらっ、こそばいだろ」

熱心に自分の指をしゃぶる犬に、エドワードが可笑しそうに
嗜めるが、犬は一向に止める気配を見せない。

「・・・なんか、兄さん。 やたらと好かれてるね?」

アルフォンスも、その光景に不思議そうに首を傾げている。
確かに二人とも動物好きで、結構何にでも懐かれる方だが、
どちらかと言うと、兄よりも自分の方が、動物に懐かれる事が多かった。
なのに、この犬達は、まるでエドワードに捕りつかれたように、
兄に懐いている。

「そっか?」

嬉しげに返事するエドワードも、懐かれて嫌な気はしていないらしい。
最後に頭を軽く叩いてやって、その犬の傍を離れると、
さっきから、2匹でかたまってて、様子を見ている犬達に近づく。

「こっちの犬は、賢そうな顔してるよな。
 それと、こっちの奴は、目見えないじゃん」

ヒューズの横に立っていたファルマンの目に被さる髪を撫で上げて、
その下にある身体に似合わない小さな目が、見えるようにしてやる。

グラリとファルマンの身体が揺れたかと思うと、
正面に屈んでいるエドワードの胸元に、突っ伏すようにして
身体を預けていく。

「おっとー。 こらっ、急に飛び込んできたら、危ないだろ」

バランスを崩しそうになったエドワードが、何とか体制を持ち直して、
飛び込んできた犬を抱きかかえ直す。
そんなエドワードの言葉に、お構い無しに、身体をグイグイと擦り付けてくる犬に、
エドワードも、苦笑しながら、抱きしめ返してやる。

『ファルマン・・・。 お前ら』

一部始終を見ていたヒューズが、気難しげに唸り声を上げる。

『これは、もしかしたら・・・』

うーん、うーんと唸り始めたヒューズを他所に、
先ほどから、ロイが苛々とエドワードの周囲をうろつき始めている。
確かに紹介するのを了承したのはロイだ。
自慢の伴侶を見せびらかしたい気持ちも、確かにあった。
が、どうも様子がおかしく、気配が不穏だ。
彼らの様子は、どこか、エドワードに対するロイの行動に近い気がする。
まさかそんな筈はないとは思いながらも、不安は消え去らない。
1匹、1匹と、エドワードが近づくのに、やきもきしながら様子を窺う。

「どうした? 何か気に入らないのか?」

横で唸り声を上げているヒューズに、エドワードはひょいっと手を翳し、
宥めるように頭を撫でてやる。
瞬間、ヒューズが茫然と、エドワードを見上げる。
そして、高らかに一声吠えると、まさに押し倒しそうな勢いで、
飛び掛る為に前足を浮かそうとした寸前に、ロイが憤然と飛び込んで
抗議の声を上げる。

『ヒューズ! お前まで、何をするつもりだ!!
 エドワードは私の伴侶で、お前のグレイシアとは違うんだぞ!!』

ロイの威嚇で、はっと気を取り戻したヒューズが、
危ない危ないと呟きながら、エドワードから1歩下がる。

「ロイ! 何吠えてんだよ。 駄目だろ、友達にそんな態度して」

驚いたようにエドワードが嗜めるが、聞く耳を持たないロイは、
皆からエドワードを引き離すように、張り付いていたファルマンを押しのけて、
自分がべったりと、くっついてしまう。

「何だよ?焼餅か? 困った奴だな」

急に甘えてくるロイの様子に、呆れたように告げるが、
満更でもない内心で、ロイの身体を抱きしめてやる。
どこでもそうだが、自分の飼い犬が1番可愛いものなのだ。

「兄さん、この犬見て~。 凄く、綺麗な犬だよ」

少し離れた所に1匹居る犬を、熱心に見ていたアルフォンスが、
感嘆したように、エドワードに声をかけてくる。

よいしょと掛け声と共に立ち上がると、
離れたがらないロイを宥めて、エドワードがアルフォンスの方へと歩いていく。
浮遊していた意識が戻ってきた犬達は、その対面に固唾を呑んで見守っていた。
自分達の今の心境は、どうにも言葉では表せない。
今まで経験しなかった状況に、皆一様に動揺しているのだ。

「本当だ。 凄い綺麗な上に、こいつは雌なんだな」

エドワードがじっと、犬の綺麗な瞳を眺めてそんな事を告げると、
声も上げずに、大人しく立ち尽くしていた犬が、
恥ずかしそうに少し俯いて、垂れた頭をエドワードに差し出す。

「よしよし、凄い美人さんだな、お前は」

差し出された頭を優しく撫でてやりながら、褒めてやると、
お礼なのか、嬉しそうにエドワードの頬を嘗め上げてくれる。

そして・・・、それを傍観していた周囲の犬達は、
あまりの衝撃の光景に、吠え声1つ上げれないまま硬直している。

そんな犬達の様子には気づかずに、エドワードとアルフォンスが、
リザを相手に、お手やら、お座りを試してみて、
難なくやり遂げるリザを、しきりと褒めている。

『あ、あのホークアイが・・・恥らう姿なんて・・・』
『頭を垂れるのも、見た事が無い』

いつも冷静沈着で、常に凛とした姿勢を崩さない彼女は、
そこら辺の男どもよりも、遥かに頼りがいもあり、漢こらしい。
それが、それが・・・。

いつのまにか、どこかに隠れて様子を見ていたのか、
先日見た大型犬も混ざっている。
エドワードが親しみを込めて撫でてやるのを、嬉しそうに受けていた。

賑やかな集団面会は、二人が母親に用事を言いつけられるまで続き、
その後お開きになった。
家に戻る二人を、惜しみながら、名残り惜しそうに見送る犬達は、
エドワードの「またな」と言う言葉に、うれしそうに返事を返しながら、
再会を胸に抱いている。




場所を変えて、リゼンブールから1番近い地方都市の酒場で、
擬態を解いた面々が、深刻な表情で頭をつき合わせている。

「一体、どういう事なんでしょうか・・・」
「ほら見ろ、俺が言った通りだったろうが」

ハボックが、先日の雪辱を晴らすかのように告げた言葉は、
皆にはスルーされる。

「考えられるとしたら・・・」

最年長のヒューズが、慎重に、重々しく話し始める。

「「「考えられるとしたら?」」」

皆も、息を詰めて話しに聞き入る。

「多分・・・としか言えないが、ありゃーマザータイプの伴侶なんだろうな」

「マザー?」

聞きなれない言葉に、皆が首を傾げる。

「ああ、マザー、母体タイプだな。
 俺ら種族は、色々なキーワードで伴侶に惹かれる。
 匂いだったり、気配だったり、声だったり、色だったり。
 自分の琴線に触れるキーワードを持った伴侶に惹かれるわけだが、
 あのちびっ子は、多分、その特性を凝縮して持ってるタイプなんだろうな」

「えっ、それってどう言う事なんですか?」

「簡単には言えんが、近いのは、皆の模擬伴侶ってとこか?」

「「「模擬伴侶~!?」」」

「そう。 自分達が惹かれる複数の特性を持つタイプだから、
 皆が惹かれてもおかしくないわけだ」

「それは、どういう事だ?
 伴侶は一人しか居ないのに、複数が惹かれては困るだろう?」
 
今まで、不機嫌そうに黙り込んでいたロイが、初めて口を挟む。

「でも、そうなるわけだ。
 過去にも、数は多くないが、一人の伴侶を争った複数の奴の話は
 聞いた事がある。 聞いたときには、そんな馬鹿な話があるかと思ったが、
 今日みたいに実際目の当たりにすると、納得できなくとも、
 現実は直視しないと駄目だろうが」

ヒューズの言葉にも、ロイは納得する様子を見せない。

「で、結果的にはどうなるんだ?
 伴侶を共有は出来ないぞ。 と言うか、そんな事は絶対に許さん」

周囲を威嚇するように、厳しい気配を滲ませて
脅しかけるロイの様子に、周りのメンバーも首を竦める。

「まぁまぁ、そんなに凄むなよ。
 模擬と言ったろうが。 本来の伴侶に会えば、模擬に惹き付けられる度合いも減る。
 お前さんの、本当の伴侶が、あのちびっ子なら、
 そんなに目くじら立てる事無く、デーンと構えていればいいんだ」

「本当の伴侶なら?」

ヒューズの言葉にひっかかりを覚えたロイが、不審そうに聞き返す。

「そうだぜ。 だってお前だって、模擬に引っ掛かってないって保証はないんだ。
 逆に、ここのメンバーの中にも、ちびっ子の本当の伴侶がいるって事も
 あるわけだ」

その言葉に、ロイの我慢も限界に達したのか、
机に手の平を打ち付けると、大きな音をさせて立ち上がる。

「そんな事は、断じてない!
 エドワードは、私の伴侶だし、他の誰にも触れさせない!」

殺気さえ滲ませて、自分達を睨みつけているロイの血相に、
面々は、思わず逃げの為に、腰が浮く。

「落ち着けって言ってるだろうがよ、ロイ。
 まぁ、ちびっ子がお前の伴侶なのは、ほぼ間違いない。
 惹きつけられてる度合いの濃さから言っても、
 こいつらとは格段と違うからな。

 が、あのちびっ子には、他の奴らも惹かれるのは仕方ないって事だけは
 わかってやれよ。
 こいつらも、人の伴侶にちょっかいをかけたくて、やってるわけじゃないんだぜ。
 模擬とは言え、伴侶には誰も逆らえないし、贖えないのは、
 伴侶を見つけたお前ならわかるだろ?」

ヒューズの言葉に、ぶっすりと黙り込んで、荒々しく座り直す。

「解決策は?」

不機嫌に聞かれた言葉に、ヒューズがあっさりと返す。

「ないな」

「ヒューズ!!」

「だーかーら、落ち着けっての。
 しゃーないだろうが、惹き付けられるのを止めるわけにもいかんし。

 だが、1つだけ解決策は無い事も無い。
 まぁ要は、こいつらの本当の伴侶が見つかればいいわけだ。
 それまでの事だから、多少の事は多めにみてやれよ。
 お前の力なら、奪われる心配は全くないわけだ。
 少し位の、幸せのおこぼれを味合わせてやる位、構わんだろう?」

俺なんか、いつも施ししてやってるじゃんんかと、嬉々として
家族の写真を持ち出そうとするのを、冷たい周囲の視線で押しとどめ、
皆が、固唾を呑んで、ロイの動向を窺う。

長く気まずい沈黙の中で、誰も言葉を発しない中、
冷静な声が、呟かれる。

「要するに、アイドルみたいなものでしょうか?
 独り占めは出来ないが、皆で崇拝する分には構わないと言う事で」

ホークアイの冷静な提案に、思わず周囲の表情も明るくなる。

「おっ! さすがリザちゃん、いいこと言うねー。
 んじゃあ、さしずめ、豆姫と7人の従者ってとこだね」

従者と獣者をかけてるって、いいと思わん~?と自分のネーミングセンスを
自慢げに語るヒューズの様子に、周囲の明るくなった表情が、
またしても、暗くなる。

ホークアイの提案を、不機嫌そうに思案していたが、
あきらめたように、嘆息して、ロイが周囲のメンバーを見回しながら
念を押す。

「仕方ない、了承しよう。
 ただし、私の居ないときに、エドワードに勝手に会いに来ないこと。
 他を出し抜くような、抜け駆けは禁止だ。

 それと、今まで以上に努力して、伴侶探しに精を出してもらい、
 この関係を、速やかに終わらせてもらおう」

 そのロイの言葉に、皆が大きく頷き返し、誓う事を示す。

皆が納得したのを確認して、ヒューズが杯を上げて、
高らかに告げる。

「よっしゃー、話は決まったな!
 じゃあ、今日からは俺らは、豆姫と7人の従者となって、
 陰日なたなく、ちびっ子を守ってやろうじゃないか」

乾~杯の声につられて、皆も杯をかざすが、
ロイだけが、腑に落ちない表情を浮かべている。

「なんだよ、ロイ。 結成の日なんだ、そんなしけた面してないで、
 明るく行こうぜ」

「ちょっと待て、何故、俺らなんだ?
 お前は関係ないだろうが」

「固いことは抜きだ。 従者は多くても困らんだろうが。
 それに、俺も、あの豆っ子は気に入ったんでな」

「ヒューズ! お前、さっき言ってた話と違うだろうが!」

「まぁまぁ、細かい所は気にせず、お前も飲めー」

ロイの反論も気にせず、どんどんと杯に酒を注ぎながら、
ロイの言葉を封じていく。




「お帰り、えらく遅かったんだな。
 皆、無事に帰ったか?」

重い気分でエドワードの待つ家の扉をくぐる。
入ると、朗らかに迎え入れてくれるエドワードの気配に、
ささくれ立った気持ちが、和いで行くのを感じていた。

「くぅ~ん」

甘えるように擦り寄るロイに、エドワードが甘やかすように
撫でてやる。

「お腹すいたろ? ご飯にしたら、一緒に風呂に入ろうな」

優しく告げられる、甘い誘いに、ロイも嬉しそうに尻尾を振り返す。

バスタイムは、ロイのお気に入りの時間だ。
この時間なら、遠慮なくエドワードの一糸纏わぬ姿が検分できるし、
ちょっとした悪戯も多めに見てもらえる。
今日のように疲れた日には、最高の癒しだろう。

いつもより、少々度が過ぎた悪戯の数々に、エドワードが笑い転げるように
身を捩って逃げるのに、ロイは執拗に追い立てては、
憂さを晴らすのだった。


「はぁ~、熱かったー。
 お前、甘えすぎだよ。
 もう、子犬じゃないんだぞ。
 大人になったら、もっとシャンとして、甘えるのは
 止めないと、立派な犬になれないぞ」

風呂上り、エドワードの部屋で、そんな風に諭しながら、
コツンとロイの頭を突付いてやる。

それに、嫌々をするように首を振って、エドワードの突付きを
避けるようにしているロイに、声を上げて笑う。

「でも、お前も沢山の友達が居て良かったな。
 皆、可愛いいい犬ばかりだったじゃんか」

我が子のことのように、嬉しそうにエドワードが語るのに、
ロイは、不機嫌そうにプイッと顔を背ける。

そのロイの仕草に、眦を下げながら、エドワードが優しく抱きしめてくれる。

「何拗ねてんだよ?
 大丈夫だって、どんなに沢山の子がいようが、
 お前が1番だよ」

そう告げてくれるエドワードの言葉に、
ロイは感動で胸が震える喜びに浸る。
そして、ゆっくりと被さるようにのしかかっては、
エドワードをベットに押し倒す。

そして、伸ばせば、エドワードとの身長差もなくなった今、
真下に見えるエドワードの顔に、ゆっくりと近づき、
ふっくらとした唇に、長い舌を這わす。

「こらっ、重いだろ。
 横に避けろってば」

笑ってそう告げてくるエドワードの口が開いたのを幸いに、
強引に長い舌を侵入させ、口内を嘗め回すように蠢かす。

「んんんー! ふぁにすんらよ」

ロイの舌のせいで、はっきりとしゃべれなくなったエドワードが、
呂律の回らない話し方で、静止をかけてくる。

ロイは、中で蠢く小さな舌を巻き込んで、自分の口内に引き込むと、
軽く愛撫するように甘噛みをして刺激してやる。

「ゥンンー!」

瞬間、背筋に這い上がる感触に、驚いたように声を上げる。

そして、上に圧し掛かっていたロイを押しやると、
ゴツンと強めの拳を頭に落としてやる。

「もう!何済んだよ。 お前、さっきご飯食べたばかりだろうが。
 俺を食べてどうするんだ。 今度は、朝まで我慢しろ」

メッと顔を顰めて説教するエドワードに、ロイは嘆息を付きながら
ベットから降りる。

『食べさせてくれるなら、ご飯より、君の方がいいさ・・・』

大人しくなったロイに、躾が上手く行ったと思ったエドワードが、
満足げに伸びをして、ベットに入る。
お子様は、そのまま健康的に眠りに付き、
大人は、悶々とした燻りを身体に宿しながら、
長い夜を耐え忍んでいく。

『いつ、正体を明かそうか・・・』

時期は熟したとは言えないが、そろそろ強引にでも
事を進めたほうが良さそうだ。
ライバルには足らないが、余り有り難くない面々も増えた事もあり、
ロイの葛藤が、次のステップに頭を向けさせるのだった。

 






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